『星月夜』は2016年、舞台公演「一人芝居ミュージカル短編集vol.1」のために書いた作品です。そのときは「天才」と呼ばれる存在のまわりにいた人物を描きたくて、テオドルスの物語を作りました。
それから数年が経ち、今度はヴィンセントの物語を書くことに。最初は、一度閉じた箱を無理やり開けるような感覚があったのですが、いざ作り終えてみると、これでようやく「夜空が完成した」という気がしています。
このたび、伊藤さんの楽曲、赤澤さんの演出、伊東さんと白井さんの演技と歌、スタッフのみなさんのお力を得て、『星月夜』2version、素晴らしいミュージカル作品に仕上がりました。
みなさま、どうぞ心ゆくまで、何度でもお楽しみください。
「 2016年 伊藤靖浩 」と書かれた手書きの譜面を見ながらこの文章を書いています。
7年前、デッサンのような、あるいは黄色い家を目指したかのような、本当に小さな企画の作品としてこの作品を作曲しました。ニューヨークで最優秀作曲賞を頂き、それでも、未来が見えず、作品を、とにかく深く、とにかく多く、残したい、届けたい、そして届け、と思っていた時期でした。今日までの7年の間に、なんと色々なことがあったのでしょう。まさかこんな今日があるなんて思っていませんでした。
ゴッホは、生きている間に日の目を見ることは叶わず、気が狂ったとされ、星月夜以降の、もちろんそれ以前の名作を生み出したとされています。
史実に準ずるとそうです。
ですが、これは、僕が、2016年と2023年に作曲したこの作品は、ミュージカルです。
どうか、目を瞑り、日の当たらない、幸せがあったかもしれないと、耳を澄ませていただければ幸いです。星も月もいつでも近くで輝いていますように。祈りを込めて、メッセージと代えさせてください。
(2023年2月23日 伊藤靖浩)
聞こえてくるのは―
時に恋人への相談、意気揚々とした決意、独り言、美術館でこっそりと行われる喧嘩であったり、悲鳴のごとき苦悩の吐露。
そして星月夜に呼応する兄弟の囁き。
一枚の絵画から生まれたこの作品世界を、イメージ豊かにお届けするよう努めました。静かな夜に、喧騒の昼に、どうぞお楽しみ下さい。